東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)117号 判決 1970年5月09日
原告
全逓信労働組合
右代表者
宝樹文彦
右代理人
仲田晋
外四名
被告
公共企業体等労働委員会
右代表者
兼子一
右指定代理人
峯村光郎
外五名
主文
1 公労委昭和四一年(不)第二号および第三号事件につき、被告が昭和四二年七月五日付でした救済申立てを却下する旨の各決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする
事実
第一 当事者双方の求める裁判
一 原告
主文と同旨の判決。
二 被告
「1 原告の請求を棄却する。2 訴訟費用は原告の負担とする」。
第二 当事者双方の主張
一 請求原因
(一) 原告は、昭和四一年九月三日郵政大臣を被申立人として、「茨城県美浦郵便局長、大阪城東郵便局長、および大阪福島郵便局長が昭和四〇年八月ごろから断続して原告組合の運営に介入し、あるいは原告組合の組合員を差別取扱いしており、このことは労働組合法第七条第一号、第三号に該当する不当労働行為である」とし、さらに昭和四一年一二月五日同じく郵政大臣を被申立人とし、大阪福島郵便局長および大阪住吉郵便局長が昭和四一年九月一日付で原告組合の組合員である下津誠ほか三名を配置転換したことは労働組合法第七条第一号、第三号に該当する不当労働行為であるとし、それぞれ不当労働行為救済命令を求める申立をし、それぞれ公労委昭和四一年(不)第二号および同第三号事件として受理された。
(二) ところが、被告は、昭和四二年七月五日、右事件につき申立てを却下する旨の決定をした。
(三) しかし、右却下決定は、違法であるからその取消しを求める<以下略>
理由
一原告適格と処分の存在
請求の原因(一)(二)については当事者間に争いがない。
二処分の適否
(一) 公共企業体等労働関係法(以下単に公労法という。)第二条第一項に掲げる公共企業体等の不当労働行為により不利益を受けたと主張する公共企業体等の職員等(同法第二条第二項に掲げる者、およびその結成し又は加入する労働組合をいう。)は、公共企業体等労働委員会(以下単に公労委という。)に不当労働行為救済申立てをすることができ、申立を受けた公労委は、公労委が定める手続規則公共企業体労働委員会規則―(公共企業体等労働委員会規則以下単に公労委規則という。)による調査、審問の手続を経て事実の認定をし、この認定に基づき不当労働行為が存在する以上、必要な救済命令を発しなければならない(公労法第二五条の五第一、二項、労働組合法第二七条第一、三、四項)。
したがつて、不当労働行為に対する救済を申し立てた公共企業体等の職員等は救済申立てに基づき公労委の定める手続規則に従つた適正な手続によつて不当労働行為救済命令を発することの可否について判断を受ける手続上の権利を有するということができる。(なお、実際に不当労働行為により不利益を蒙つた職員等が公労委に対し実体上の権利としての右救済請求権を有することはもちろんである。)
(二) ところで、公労委の定めた手続規則たる公労委規則は、公労委が法の授権のもとに自ら定立した強行法規たる行為規範であつて、公労委自身に対しこれに則つて審理等をなすべき義務を課した反面、国民に対しても公労委に対しこれに則つて審理等をすべきことを求める権利を賦与したものと解することができる
そうであるとすれば、公労委が、公労委規則の定めた場合でないのに、不当労働行為救済申立てに対し、不当労働行為の存否の認定をなさず、申立てを却下するというようなことは、申立人の右手続上の権利を害することになり許されないと解すべきである。
(三) ところが労働委員会規則第三四条は、申立てを却下できる場合の一つとして「申立人が申立てを維持する意思を放棄したものと認められるとき」をあげているが、公労委規則をみると、申立てを却下する場合について規定した第二六条には右のような場合があげられていない。
そして、公労法および公労委規則を通覧しても、他に「申立人が申立てを維持する意思を放棄したものと認められるとき」に申立てを却下できる旨を規定した条文は見当らない。
被告は、公労委規則第二六条が掲げる却下事由は例示的なものであつて制限的なものでないと主張するけれども、不当労働行為申立てが却下されると、申立人は、再度の申立ては妨げられないにしても、当該申立によつて開始された手続内で不当労働行為の救済命令を発することの可否について公労委の判断を受ける機会を失うことになること、また、再度の申立てが可能であるといつても、それは無制約に許されるわけではなく、申立期間が制限されている(公労委第二五条の五第二項、労働組合法第二七条第二項、公労法第二五条の五第四項)関係上、再び救済を申し立てる時間的余裕がないこともあり、その場合には単に前述の手続上の権利を失うにとどまらず実体上の権利である救済請求権をも失うことになること、しかも不当労働行為救済申立ての制度の目的は、個人あるいは組合の権利救済にとどまらず、そのことを通じて公正な労働関係の樹立を図ることにもあることを考えあわせれば、不当労働行為の存否についての判断がないまま却下する場合が拡がる結果を招くような解釈は相当でないから、前記公労委規則第二六条は却下する場合を制限的に規定したものと解するのが相当である。
(なお、被告は、明文の規定がなければ却下できないとすると、「申立人の所在が知れないとき、申立人が死亡し若しくは消滅し、かつ、申立てを承継するものがないとき」の処置に窮する旨主張するけれども、もしそうであるとしても、公労委規則に、却下する場合として右の場合を追加すれば足りるのみならず、現行公労委規則のもとでも同規則第二六条第一項第六号に定める「救済を求める事項が法令上又は事実上実現することが不可能であることが明らかなとき」に該当するとして処理できると考える。」
(四) そうであるとすれば、本件の場合、不当労働行為命令手続を遷延させたのは原告の側であることは、<証拠>により明らかであるけれども、申立人たる原告に「申立てを維持する意思がないと認め」て申立てを却下した被告の本件処分は、その余の点について判断するまでもなく、違法というほかはない。
三むすび
よつて、本件却下決定の取消しを求める原告の請求は正当であるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(沖野威 小笠原昭夫 石井健吾)